夏目縮小亭 (夏目なつめ)

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夏目縮小亭 (夏目なつめ)の投稿

夏目縮小亭 (夏目なつめ)の投稿一覧です。「長雨の部屋」「mission failed」など、153件の記事が投稿されています。

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長雨の部屋

降るなぁ、と、気怠く気怠く彼女は言った。ベッドの上、薄暗い土曜の昼過ぎのこと。  窓を打つのは蜘蛛の糸に似た細い雨で、通奏低音に似た響きを伴う。  降り始めて何日かは、もう忘れた。 「イヤ...
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mission failed

§  夜陰を抜け無数の人影が野に散らばっていた。そこには、俺を含め男女が数十人。身を低くし地を駆ける俺たちに夜気の爽やかな闇がそよいだ。夜露に湿り瑞々しく濃い香りだ。緩やかな風に天を覆う植物は...
39

小人と大人と(後編)

§  それから、家にいく度サヤさんは例の言葉を囁いた。  ニコニコと笑う可憐な少女が、一瞬艶を見せたと思うと蠱惑的な年上に変わるのだ。そうなれば、私はどんな言葉を口にすれば良いのかわからなく...
8

小人と大人と

§  ずいぶん若いなと思った。  履歴書の端を指先でもてあそびながら、独りごちる。  小説家に年齢制限はないけれど、まだ、未成年じゃないか。  チラリと原稿に一瞥をくれる。  彼女...
11

〇〇ポップ

§  ピンチだった。  襲われていたのだ。  目前にそびえる三つの巨体。僕の100倍にも及ぶその体は、まるで連なる山のようだった。  輝く六つの瞳に見下ろされ、僕は蛇に睨まれた蛙だ。 ...
33

包んで閉じて

§  机の天板に似た、丸みを帯びた板に、色を塗っていく。半透明の水晶のようなそれは、厚く、つややかなもの。巨大な球体に支えられたそれに一筆刷毛を走らせれば、鮮烈な赤が伸びていく。 「ごめんね...
46

由美さんの媚笑

§  華奢な体を憎く思う。まだ来ない成長期に、女の子みたい、なんて言われる始末。名前さえ女子っぽく、今でも時折間違われるから困り者だ。  だからこう、親にさえ信用されないんだろう。口惜しいよ...
37

亡国の王も今は昔

§  亡国最後の政治劇は喜劇の様相を呈した。  かつての王党派は、王宮に集まり暴徒と化した。王に死を、愚鈍な王に死をとの絶叫が、彼らの怒りを物語る。  片や広場では戦争継続を叫ぶ者がおり、...
37

小人教師と受難の日々(上)

§  身の丈ほどもある椅子の、座面に手をかける。呻きながらよじ登り、さらに上へ。机の上に身を投げ出すと、ようやく一息ついて、準備を始める。畳まれた私用の机を組み立て、タブレットを据え付けて。そ...
18

朝潮遊戯、荒潮遊戯(上)

朝潮と荒潮の二人が入ってきた時、本能的に嫌な予感がした。  生真面目な少女の背後に、妖しげな荒潮の影。朝潮の肩に手を肩に手を置きながら、普段の微笑みにさらに意味深な笑みをたたえている。  私...
15

手乗りご主人1

ケットシーを飼うことにした。  捨てられていたのだ。 「でも、どうしようたものかな……」  道端、ダンボールに入って縮こまっているのを見て、どうにも立ち去れず今に至る。ケットシーなんて飼っ...
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浦風の胸の内

「浦風は涼しそうでいいな」 「ん?」  独り言ちるも、どうやら聞こえたらしい。怪訝そうな顔で小首を傾げる彼女。垂れたその青空のような髪も、袖の丸めたセーラー服も、夏に適した格好だ。少なくとも...
17

乳頭の牢

僕を乗せた布は、凧のように浮かび上がった。しかし外の様子は窺い知れない。タオルケットのようなものに包まれ、身動きさえ取れずにいたのだ。  ベール越しには陰影が踊っていた。そして、一気に暗くなる...
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