新月の夜、男が〇〇を負って走っている。 闇の竹林を、勘を頼りに走っている。 激しい鼓動とめちゃくちゃな呼吸で、走っている。 幾度か石につまづいたが、男は決して転ばなかった。 永遠亭は...

秋のある日、殺人事件が起こった。 人間の里の郊外、有名な彫刻家、光太郎のアトリエで、その主が胸を彫刻刀で刺され、土間で横たわっていたのだ。 死体を発見したのは霧雨魔理沙（数えで十四歳）。 ...

シャンデリア、ダンスフロア、赤い絨毯、金の燭台。紅魔館の華やかなパーティーが催されていた。部屋の中央の、本来は絨毯のみであるべき空間には、違和感無く白いクロスの円いテーブルがいくつも鎮座している...

早苗は境内の異様な光景を目の当たりにして、しばらくその場に動けなくなった。 　目に見えない不可解な質量が、その広い空間に満ちている。 　濃厚なおどろおどろしい異様な雰囲気によって、大気が重く...

いい天気で目覚めた。 　寝ぼけまなこの早苗は、枕をどかし、下にいつも置いている霊夢のブロマイドを眺めた。 　そして布団からのそのそ抜け出し、愛する諏訪子と神奈子に、おはようのキスをした。 ...

「キツいの」 　それだけ言って夕方のカウンターにゆっくり座った。無言のバーテンが優雅な動きでジンの瓶を摘み上げるのを見届け、私は胸元から一枚の写真を取り出した。写真に写っているのは、顔に幼さを...

１ 　暗い岩場に置きざられて蟲のたかった鼠の死体の尻尾を摘んで拾い上げ、猫車に乗せた。湿った死臭のするその肉は強張り、尻尾は鍵尾のように硬くなっていた。死んでから数時間といったところだろう...

１ 粉雪のふりつむ音の静かなる枯れた桜の枝に花咲く 「なかなかお洒落ね。そこの桜と、西行妖のことね」 「ええ、我ながらうまく詠めたと思います」 ぐい呑みの水面に揺れる月影がま...

人間の里のある平屋の一つ。つぎはぎの布団にずっと寝て、死にかけている男がいる。虚ろな乾いた眼球で宙空を見上げている。朝と夜の二度、細君が口に流しこむ粥を、咳き込みながら喉の奥に飲み込む以外に楽し...